
【ZETA DIVISION×Geekly】プロゲーマーという生き方【後編】―「プレッシャーは特権だ」4人が背負うものと、見据える究極のゴールは~Vol.3~
Geeklyがネーミングライツパートナーを務める「ZETA DIVISION Geekly」の4選手による座談会。前編では、MenaRD選手が育ったドミニカ共和国と、彼が国を出て世界へ挑むまでの道のりをお届けしました。
後編のテーマは「プロフェッショナルとしての在り方」です。スポンサーやファンの期待を背負って戦うプレッシャーとの向き合い方、表に立つ者としての振る舞い、そしてそれぞれが見据える5年後、10年後とは。国も世代も歩んできた道も異なる4人へ、プロとしての姿勢を伺いました。
「プレッシャーは特権だ」
―前編では、ビザの取得から初めての遠征まで、多くの方の力を借りて世界へ出たお話を伺いました。それだけの後押しを受けると、プレッシャーも変わってくるのではないですか。
MenaRD:実は、そこまででもなかったんだ。僕らはみんな『ストリートファイターIV』をやってて、誰も国を出られなかった。唯一、DR Rayっていう選手だけが海外に行けてたんだよ。だからみんな、Rayの後に続きたいと思ってた。前例があったんだ。
それに、初めての遠征は親友のCabaと一緒だったし。あいつは本当に面白くて、くだらないことばっかり言って笑わせてくるんだよ。大会に行っても、僕はずっとあいつの話を聞いて笑ってた(笑)おかげでリラックスできて、だんだん自信も出てきた。前例があったことと、環境に恵まれたこと。その2つが大きかったね。
※DR Ray、Caba……MenaRDと同じくドミニカ共和国の格闘ゲームプレイヤー
―サポートを受けて海外に行くプレッシャーについては、日本の皆さんはいかがですか。
ももち:プレッシャーはありますね。チームに所属して、スポンサーを背負って、勝たなきゃいけない。僕は2011年にプロになったんですが、プロを目指してなんとかなれた、その最初の大会はものすごいプレッシャーを感じました。
あとは「自分がどうあるべきか」という部分ですね。勝たなきゃいけないのはもちろん、ファンにどう応援してもらうか。キャラクターを選ぶときも、強いキャラを選ぶべきか、人気のキャラを選ぶべきか。そういう葛藤はすごくありました。
―背負うものが増えるんですね。
ひぐち:僕も感じます。海外への渡航費は決して安くありませんし、それを支援していただいている。でもトーナメントってすごく難しくて、うまくいくときもあるけど、大体はうまくいかない方が多いんですよ。そういうときに「何やってるんだろうな」「これだけ支援してもらって結果を出せなかったな」と思ってしまいます。
だからプレッシャーというより、何とかしたい、何か持って帰りたいという気持ちですね。現地で配信をして注目してもらうとか、大会そのものの注目度を上げるとか、そういう形でも還元したいなと考えています。
ヤマグチ:プレッシャーはもちろんあります。スポンサードしていただいて、チームの看板を背負って大会に行く。でも全員が勝てるわけじゃない、競争の世界なので負けることの方が多い。けれど、それが仕事です。
プロゲーマーなら誰しも少なからず感じている部分だと思うので、それぞれがどう折り合いをつけるかが重要なんだと思います。僕は「結果をなんとしてでも」とやり始めたのが結構最近のことなので、そことどう向き合うかは、まだ模索している段階でもあります。
―MenaRD選手は、今はどうですか。
MenaRD:誰でもプレッシャーは感じると思う。全ての選手が感じるべきだとも思ってる。ただ、多くの選手はそれを怖がってるんだよね。本当は、プレッシャーって「特権」なんだ。
僕は日常生活ではプレッシャーをまったく感じない。勝たなきゃいけない、結果を出さなきゃいけない、っていう必要がないから。それって、すごく退屈なんだよ。むしろプレッシャーが恋しくなる。何かを期待されることが恋しくなる。
だからプレッシャーを感じるのは、僕にとってすごく幸せなことなんだ。その瞬間は重いし苦しいけど、それは「勝ちたい」「良い結果を出せるはずだ」って思えてる証拠だから。勝てないと思っていたら、プレッシャーなんて存在しない。良い選手だから、プレッシャーを感じる権利を勝ち取ったんだよ。それは特権なんだ。
―プレッシャーそのものがモチベーションになっている、ということですか。
MenaRD:モチベーションのためのエネルギーっていうより、「楽しむための材料」って言った方が近いかもしれない。プレッシャーを感じながら楽しむことが、僕の中では全てだから。遊びでやるときも、僕は本当の意味では遊びでプレイしないんだよ。いつも100%でやる。プレッシャーのある戦い方しか知らないから。
モチベーションは「毎日」つくる
―では、モチベーションはどこから来るのでしょうか。
MenaRD:長期で考えないようにしてる。「自分にはあと何が残ってるのか」「どの大会を勝つべきか」じゃなくて、毎日やらなきゃいけないこととして捉えるんだ。今日、自分は最強のプレイヤーか?事務所に行って、全セット勝てるか?この対戦カードで、全部勝てるか?そういう問いを毎日立ててる。
強いプレイヤーに囲まれてるから、うまくなる理由はいつでも見つかるんだよ。自分に勝てるやつがいる。ある日は自分より良いプレイをするやつがいる。動画で自分にはできないプレイを見るだけでも、練習しに行こうって気持ちになる。毎日、うまくなる理由を見つけてる感じかな。
―キャリア的にはもう十分、とはならないんですか。
MenaRD:キャリアとしては今日やめても「十分やった」って言えるかもしれない。でも朝起きると、まだ何もしてないような気持ちになるんだよ。だから、日々で考えるようにしてる。
―皆さんはモチベーションの維持、難しくないですか。
ももち:僕はゲームが楽しいので、「モチベが湧かない」「今日はやりたくない」があまりないんですよね。逆に「大会があるからこれをやらないと」という気持ちが強すぎると、しんどくなってくる。基本は「対戦したいな」「こいつを倒したいな」という思いが常にあるので、そういう意味ではMenaRDに近い部分があるかもしれません。今日も面白かったな、明日も頑張ろう、という感じでやれています。
元々プロという概念がないところからスタートしているので、初心を忘れないように、というのは意識しているかもしれないですね。ゲームは楽しんでやる。それが強さになって返ってくる。
プロとしての振る舞い―「普通に生きる」
―プロになって、SNSの使い方や配信での振る舞いなど、表に立つことへの意識はどう変化しましたか。
ひぐち:何を気をつけているかな……。まあ、炎上はしないように(笑)
ももち:ひぐちとヤマグチは、配信についてとかプロとしてどうあるべきかとか、常に議論しているんですよ。でも印象としては「普通に生きるべき」なんですよね(笑)
ひぐち:発言について、僕は嘘をつくのが得意じゃないというか、「この時はこう、この時はこう」というのが苦手で。配信も5〜6時間とかやるんですよ。そうなると、取り繕うのは厳しいなと。
ももち:ひぐちはちょっと言葉選びが怪しいんですよね(笑)炎上するとしたらそこなんですよ。悪意はないんだけど、ちょっとニュアンスが違う言葉を選んでしまうところがある。
―“深淵”もそれですね。
ひぐち:それはまあ、そうなんですけど(笑)
ももち:それがキャラクターとして愛されている部分もありますよね(笑)
「僕は、国を代表している」
―同じ質問をMenaRD選手にも。プロとして意識していることはありますか。
MenaRD:これは、海外に行き始めたときに気づいたことなんだ。自分の国を代表して外に出て行くと、「あいつは意味のあることをやってる」って受け止められる。それがすごく嬉しかった。
でも時間が経つにつれて、もっと深く実感するようになった。僕が何かをすると、人は「Menaはこういうやつだ」じゃなくて「ドミニカ共和国の人間はこういう人たちだ」って受け取るんだよ。ほとんどの人は、僕の国のことを知らないから。
だから僕は、自分がアンバサダーでいなきゃいけないと思った。ドミニカ共和国の人がどう振る舞うのか、どんな理想を持ってるのか、その良い見本にならなきゃいけない。自分の国の人たちを代表してるんだ。
もう一つ理由がある。僕の国では、日本とは違って、若いやつらが日常的に街でとんでもないものを目にするんだよ。だから彼らに、健全で良いものを見せたい。おかしなことを考えずに済むような何かをさ。それってただゲームをして、世界を見るってことなんだけどね。彼らにとっての良い手本でいたいんだ。
もちろんプレッシャーはあるよ。僕だってバカなことを言いたいときもある(笑)でもそれは特権でもあるから、楽しまないと。バカなことはプライベートでやればいいんだ。
※MenaRDの「RD」は、母国ドミニカ共和国(República Dominicana)に由来する
ももち:それは本当に感じますね。MenaRDの一番最初の印象は破天荒な感じでもあったし(笑)
MenaRD:(苦笑い)
ももち:でも国としてどう見られるか、どう手本になるかを意識するようになったのは、大人になったし、世界トップになって立場ができて、より注目される存在になったからだと思う。すごく大人になったなと感じます(笑)
MenaRD:みんな、僕がインタビュー用に話を盛ってると思うかもしれないけど、実はかなり自主規制してるんだよ(笑)ももちさんはその場にいたから知ってる。僕は本当に若くて、めちゃくちゃだったからね。
ももち:クレイジーボーイでしたね(笑)
それぞれのキャリア、それぞれの目標
―最後に、これからのビジョンについて伺います。5年後や10年後、ファンやシーンにとって、自分が『どんな存在』であれたらいいなと思いますか?
ヤマグチ:僕の原点は、ただゲームが好きだったということなので。大会に出て結果を出したいという目標はもちろんあるんですが、一番大事なのは、目の前のゲームを毎日楽しんでいたいということ。究極的な目標は、ずっとゲームを毎日楽しんでやれるように生きること、ですかね。
ひぐち:僕も最初は好きで始めて、プロになろうと思ってやっていたわけではないので、楽しくやるというのはもちろんあります。ただ今思うのは、大会に出て結果を出したり、目立つことにモチベーションがあるということ。練習していると昔の「楽しいな」という記憶もちゃんとあるんですが、楽しさの質が今はちょっと違うんですよね。昔はカジュアルだったのが、今は競技的な楽しさになっている。
それをずっと続けて、20年、30年とやってみたいなと思います。「あの人まだやってるよ」みたいな(笑)仕事として長く続けていく中で、ファンの人たちに勇気を与えたり、楽しいと思ってもらえる活動がしたいですね。今も40代後半で現役の方がいらっしゃるので、50代、60代までやれたらいいです。大変なこともあるけど、それもスパイスとして楽しんでいきたいです。
ももち:ヤマグチとひぐちを合わせたような話になるんですけど、長く続けたいというのはあります。もちろん若い頃から「世界最強に」というのが第一目標で、それは今も変わらず、言うまでもなく前提としてある。それがどんどん当たり前になってきたので。
『ストリートファイター』は若いプレイヤーがどんどん出てきているんですよ。本当に10代のプレイヤーが世界を獲ったりする。40歳を迎えた今、「こいつらに負けてられない」という思いはより一層高まっています。原点ですよね。お金を稼ぐぞ、賞金を取るぞ、世界一になるぞというより、「目の前の相手を倒す」というところが原点なので、そこは忘れずにいたい。
―どこまでやれるか、と。
ももち:若い子らが「あの人が40までやってる、50までやってる、じゃあ自分たちもあと10年、20年大丈夫だな」と思ってくれたら、人も増えるし業界も盛り上がると思うんです。それは一つの目標ですね。ただ、明らかに勝てなくなったり、もうダメだと思ったときが引退のタイミングだと思っています。
自分の中で明確に決めているのは、大会で負けて悔しくなくなったら引退のタイミングだということ。今もめちゃくちゃ腹立たしいし悔しいので、まだまだやれるなと思っています。
―悔しくなくなるときって、来るんでしょうか。
ももち:どこかであると思いますよ。負けるのが当たり前になったり、負け慣れてしまったり。年齢的に反応も落ちてくるし、「負けてもしょうがないよな」と言い訳を始めたら、負け癖がついてしまう。勝負は時の運もあるので、思い詰めすぎるとマイナスに働くこともある。でもそれに慣れすぎると「運が悪かったな」で済ませてしまう。バランスは必要なんですが、年齢を言い訳にはしないようにしたい、というのは一つの目標ですね。
―では最後に、MenaRD選手にとってのゴールは。
MenaRD:僕には2つある。1つ目は教育。
まず、母国に初めてのeスポーツアカデミーを作りたいんだ。若い子たちに学ぶ道筋を用意してやりたい。今のドミニカ共和国には「プロゲーマーになりたいなら、ここへ行けばいい」というのがないから。
日本では、多くの人が先にそのビジョンを持ってて、それが優れた選手を生み出した。その最たる例がももちさんだよ。僕がひぐちに初めて会ったとき、あいつはまだちっちゃい子どもだったんだ。それが今ではチャンピオンで、僕のチームメイトだ。日本の選手の質に、本当に大きな影響を与えているよね。僕はそれを、自分の国でやりたいんだ。
あとは、心理学。僕がこれまでの人生で学んできたことを、日本を含む世界中の選手に伝えたい。競技とどう向き合うか、どう取り組むか。ゲームだけの話じゃなくて、もっと広い意味で、心理面から手助けをしたいと思ってる。
そしてもうひとつ、もちろんプレイし続けること。みんなと同じだね。僕はプレイを止めることはないと思う。体が許す限り続けるよ。そして何歳になっても、強い選手でいたいと思っているよ。
―皆さんのこれからのご活躍にも期待しています。ありがとうございました!
プロフィール
■ももち
『ウルトラストリートファイターIV』で2度の世界制覇を達成し、「EVO」「CAPCOM CUP」「EVO Japan」という3大世界大会すべてで優勝を経験した日本トップクラスのプレイヤー。2015年11月にチョコブランカとともに忍ismを設立し、翌2016年からは若手選手育成プロジェクトをスタート。ひぐち、ヤマグチをはじめとする次世代の選手を輩出してきた。2025年よりZETA DIVISIONに加入。
■ひぐち
2016年、14歳のときに忍ismの選手育成プロジェクト第一期生に選出され、2018年3月より忍ism Gaming所属のプロ選手として活動を開始。2021年には「CAPCOM Pro Tour 2021 日本大会」で優勝するなど、日本を代表するガイル使いとして知られる。2022年にSaishunkan Sol 熊本へ移籍後、2025年よりZETA DIVISIONに加入した。
■ヤマグチ
2016年、ひぐちと同じく14歳で忍ismの選手育成プロジェクトに合格し、キャリアをスタート。以降、忍ism Gamingの中心選手として長く活動を続け、2025年よりZETA DIVISIONに加入。EVO Japan 2026では優勝を収めた。
■MenaRD
ドミニカ共和国出身。17歳で臨んだ「CAPCOM CUP 2017」を制し、「CAPCOM CUP IX」でも優勝。史上初のCAPCOM CUP2度制覇を達成した。直近の「EVO 2026」をはじめ数々の世界大会でも優勝を果たすなど、世界の第一線で戦い続けている。2026年シーズンのストリートファイターリーグロスターとしてZETA DIVISION Geeklyに加入した。
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